激動のパレット業界、上場の背景にある「社会に役立つ産業」への思いー2024年問題に潜む成長可能性とはー

特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

ユーピーアール株式会社様
(画像=ユーピーアール株式会社様)
酒田 義矢(さかた よしや)――ユーピーアール株式会社 代表取締役 社長執行役員
1964年5月30日生まれ。
1988年3月早稲田大学商学部卒業。同年4月積水化学工業入社。
1994年11月ウベパレット(現ユーピーアール)専務。
1998年11月代表取締役社長。
2020年11月代表取締役社長執行役員(現任)。
2013年から山口県のJリーグチームを運営するレノファ山口の社外取締役を兼任。
パレットを中心とした物流機器のレンタルをコア事業に、物流DXソリューション、ビークルソリューション、アシストスーツ開発などの次世代対応型ビジネスを展開。「お客様の最前線をDXとシェアリングで支えるスマートカンパニー」として、今後も物流の未来に資する研究開発を進め、人々の暮らしの維持に欠かせない物流を取り巻く、物流2024年問題・人手不足などの社会的課題解消や循環型社会の実現に向けて挑戦し続ける。

創業時からの事業変遷

ーー創業からの事業変遷について教えてください。

酒田:1928年に私の祖父が酒田材木店を山口県宇部市に創業しました。その後、1951年に宇部木材株式会社に商号を変更し、1979年にパレット(※)事業部門を独立させてウベパレット株式会社として設立したのが当社です。設立当初は、宇部木材の関連会社として木製パレットの製造事業を中心に行っていました。

私自身は、1994年30歳の時に専務として入社し、1998年から社長に就任しています。当時、パレットレンタル事業は一部の割合でしかなく、木製パレットの製造が売上のほとんどを占めていました。しかし、アジア通貨危機が起こった際に、木製パレットの製造は原価の割合が高く、事業の成長性に限界がきていると感じました。そこから製造よりも付加価値が高く、全国へエリアを拡大しやすいパレットレンタル事業の割合を徐々に高めていきました。

その後、東京にあるウベパレットの子会社を2002年に合併して、ウベパレットレンタルリーシングという名前に変更しました。ここから位置情報のビジネスやカーシェアリング事業などパレット以外の事業にも参入しています。そして、ウベパレットという名前自体が事業内容と一致しなくなったため、2007年にユーピーアール株式会社に変更し、現在に至っています。

ーー社長が就任されてから右肩上がりに成長されていますね。1番力を入れたのはどのような点ですか?

酒田:1番力を入れたのは、意識をもって物事を進め、それを社員に伝えていったことです。売上が35億円ほどだった2003年頃に、10年後に売上100億円企業になって上場申請できる規模の会社になろうと全社に宣言しました。

その後、年1回必ず全社員を集め、事業発展計画書を作り、今期やるべきことを全社員に共有し続けてきました。営業所の増設、マーケットの開拓を進め、それに加えて付加価値を高めるためにIoTの事業領域にも進出しました。

その一例として東京大学との産学連携で共同研究を行い、パレットを追跡できる仕組みの開発を行いました。またM&Aを通じて事業を拡大していき、目標としていた2013年には届きませんでしたが、2018年に売上高100億円を達成しました。

2016年から100億円到達の目処が見えていたため、その時期から上場を視野に入れて準備を始めました。パレットレンタルの社会性の高さを考えると、公開企業になった方がよいと考えたためです。100億円到達後、2019年に上場も達成しました。このように目指す先を伝え続け、意識をもって進めてきた結果、達成することができたと考えています。

(※)パレット:輸送、荷役、保管のため、荷物を単位数量にまとめて載せる台のこと。

上場後の変化

ーー実際に上場してどのような変化がありましたか?

酒田:3つの大きな変化がありました。

1点目はコンプライアンスやガバナンスに対する意識です。当社は家業なので、トップダウンで物事を進める風土がありました。しかし、上場して外部に積極的に開示する必要性が出てきたことで、物事を系統立てて進める主体性が、社員一人一人の中に生まれたのです。

2点目はコミットメント力です。開示義務に応じて、売上を含めた業績に対する意識が変わり、社員の意欲の高まりを感じています。

3点目は採用です。これまで限られていたエリアから少数の新卒採用を行っておりましたが、上場後は全国的に学生を集めることができるようになりました。

今後の事業戦略や展望

ーー今後の展望について教えてください。

酒田:まず、当社のコア事業であるパレットレンタル業は、日本でまだまだ伸びると考えています。日本パレット協会の推定では、日本には5億枚のパレットがありますが、そのうちレンタル業界のマーケットは2600万枚で、全体の5%ほどしかありません(取材時点)。しかし、環境配慮の点で進んでいるヨーロッパではパレットマーケット全体の20%をレンタルパレットが占めています。日本でも政府の後押しがあるため、将来的にはレンタルパレットの割合はさらに拡大していくと思います。

当社は、今後もパレットレンタル市場が伸びることを見込んで、営業活動に力を入れています。将来的には業界トップを目指しており、売上規模も1000億円を目指していきたいと思います。

また、物流業界には2024年問題があります。これは、働き方改革関連法によりドライバーの労働時間に上限が課されることで懸念される、輸送能力不足などの諸問題のことです。この問題を解決するにはパレット輸送だけでなく、コネクティッド事業や物流IoT事業なども含めた物流の全体的なソリューションを提供することが重要だと考えています。当社は、単純なパレットのレンタルだけでなく、アクティブRFIDタグ(※)搭載のスマートパレット®やリアルタイムでの位置情報など、物流の川上から川下までソリューションを提供していくことで、課題解決に貢献していきたいと考えています。

ーー成長市場の中で御社が伸びている理由や他社に比べた強みは何でしょうか?

酒田:当社の強みは、スマートパレット®を用いたパレットの所在管理が可能な点です。温度管理も可能で、食料品等の業界で強みを持っています。このスマートパレット®を強みに、市場で差別化を図っていく予定です。

(※)内部に電池が内蔵されており、自分から電波を発信し続けるタグのこと。在庫管理や位置把握に役立つ。

ファイナンス計画について

ーーファイナンス計画はどのようにお考えですか?

酒田:銀行からの融資をメインにしており、今後も銀行融資を活用していくつもりです。

当社のビジネスモデルは、キャッシュアウトが先に行われ、後で回収するというものです。原価を回収できるのにはだいたい3年から4年ほどかかり、その後に利益を出していくというのが当社のビジネスモデルです。レンタルパレットの利用料は、1日あたりのレンタル単価×貸し出し枚数×日数で計算されます。土日もパレットが貸し出されている限り、利用料が入ってきます。ある意味、サブスクリプションのようなビジネスモデルです。

現在は金利が低いため、外部資金を取り入れるよりも銀行融資が適しています。そのため、当面は銀行融資を利用していきたいと考えています。ただ、将来的にはパレットの貸し出し枚数が増え、年間投資額が現在の3倍から4倍になるような時期が来れば、エクイティファイナンスなども検討しなければならないでしょう。当面は現状の成長速度で進めていけば問題ないと考えています。

ZUU onlineのユーザーに??

ーーZUU onlineのユーザー様に向けた一言メッセージをお願いできますか?

酒田:物流業界の2024年問題によって、レンタルパレットが今後さらに日本で普及するとともに、DX化が進んでいくと考えています。物流というキーワードを軸に、これからも成長していきますので、ご期待いただけますと幸いです。

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