水産業は時代が変わっても必ず必要であるーー株式会社オカムラ食品工業

オカムラ食品工業
(画像=株式会社オカムラ食品工業)
岡村 恒一(おかむら こういち)――代表取締役社長 兼 CEO
大学卒業後、総合商社の鍋林を経て、1987年にオカムラ食品工業に入社。1999年より代表取締役を務め、2019年からグループの最高経営責任者を兼務。日本国内にて持続可能性を担保したサーモン養殖を推し進めること、また水産物の消費拡大が期待されるアジア圏での販売を促進すること、これらによって衰退産業とされた日本の水産業の成長産業化を実現するという志を持って事業を推進している。
当社は、アジアを中心に世界8か国に拠点等を有し、生食用サーモンを中心とした垂直統合型ビジネスモデル(養殖・加工・卸売)で事業展開。急拡大するアジア市場がけん引し、サーモン需要は世界で大きく伸び続ける一方、供給側では北欧・南米の主要産地の規制等から大きな伸びは難しいとされ、サーモン養殖量の拡大が大きく期待されている。当社においては、養殖事業に関する(1)地域資源活用の壁、(2)ノウハウ・技術の壁という大きな壁を、青森企業×北欧の先進技術により乗り越え、事業拡大を果たした。今後は国内のサーモン養殖量の拡大、アジア卸売事業の拡大を柱に、さらなる成長を目指す。

世界情勢に関係したビジネスモデル

ーー事業の変遷と貴社が現在に至るまでのターニングポイントをご説明いただけますでしょうか。

株式会社オカムラ食品工業 代表取締役社長 兼 CEO 岡村 恒一氏(以下、社名・氏名略): 当社は1971年に、私の父が創業した水産加工会社です。魚卵の加工を祖業としてスタートしました。

当社がターニングポイントを迎えてきたタイミングは、世界情勢の変遷と深く関係しています。まず、1991年のソ連の崩壊です。それまでブロック経済だったものがグローバル経済になり、貿易が自由になったことで、商品が世界中に展開されるようになりました。

上記の変化により、世界中で水産物が大きく消費されるようになり、それまでは水産物において日本一強だった時代から、世界の水産物の消費量が非常に大きくなり、日本一強ではない時代が始まりました。それに伴い、原料相場が上がる一方で、安く売らなければならず、当社としては苦しい30年間を過ごしました。特に2007年は逆境のピークであり、当時のニュースにもなった食品業界全体での買い負け現象に苦しみました。

しかし、その後リーマンショックが発生して1ドル70円台までに上がったことで、買い負けの流れが落ち着き、改めて水産加工業で日本の地位が見直されることとなりました。それに伴い事業は好転しましたが、2013年の日銀大規模緩和の影響を受けて、また世の中の影響を受けることとなりました。

オカムラ食品工業
(画像=オカムラ食品工業)

このように世情に影響を受けながらも、時代の流れに順応することで現在では4事業を展開しています。1つ目は、寿司・刺身などで大変人気なサーモントラウトの養殖事業です。サーモンは経済の成長とともに販売数の伸びる食品であり、1990年の経済成長やグローバル化を受け、現在では需要の増加に合わせて7倍もの生産量に至るまで成長しました。2つ目は、祖業である魚卵の加工事業です。現在は特にいくら・筋子を加工しています。そして3つ目は、回転寿司の成長とともに伸びてきた寿司ネタの加工事業、最後の4つ目は、シンガポールを皮切りにスタートした主に東南アジアにおける海外卸売事業です。

オカムラ食品工業
(画像=オカムラ食品工業)

このようにお客様が要望するもの、あるいは時代が要求するものに対応しているうちに、垂直統合型のビジネスモデルが形成され、この4つの事業領域に至りました。当社は時代の流れに沿って最適化して今に至っていると言えます。

上場を目指したのは資金調達と採用拡大

ーー貴社が事業の成長の中で上場を目指された背景についてお聞かせください。

岡村:上場を目指したきっかけは、資金調達と採用拡大を行いたいと考えたからです。サーモンの需要が拡大し、生産側である日本での養殖業をより拡大すべく、施設への設備投資やその運営を担う人材を確保するために上場を目指しました。上場する決断に至るまでに、10年間にわたってサーモン養殖の調査を行い、ヨーロッパで行なわれているサーモン養殖の設備、技術、オペレーションなどの理解を深めたことで2017年に青森で大規模養殖を行う目処が立ちました。そして2019年に上場する決断に至り、準備期間を経て上場したという背景になります。

ーーそこから4、5年の準備期間を経て、2023年に上場されましたが、どのようにしてタイミングを決めたのでしょうか?

岡村:タイミングについては、正直自分たちだけでは決めていません。我々が上場したのは、市場的に逆風の時期でしたが、タイミングは自分たちが決定できるものではなく、上場のプロセスの中でスケジューリングされ、審査があり、そうした段取りの中で上場日が決まります。結果として、2019年に上場を目指してスタートし、たまたま2023年の9月になったのです。

ーー資金調達や採用拡大のために上場されましたが、実際の進捗度合いや達成度合いはいかがでしょうか?

岡村:双方とも好影響を感じています。まず、資金調達は計画通りに成功し、養殖事業の拡大に向けて投資額を増やしております。また、人材の獲得についても大きく影響があり、上場前と上場後では反響がまるで違います。多くの人材から当社の採用に応募をしていただいていて、新卒の学生の応募も増えてきています。現在、私自身も面接にかなりの時間を当てているほど手応えを感じています。また、取り組んでいる事業の影響もありますが、特に上場して知名度が上がってからは海外志向の学生が増えています。

タンパク質クライシスを解決する

ーーここまで、創業から事業の変遷、そして上場までのお話をお伺いしましたが、今後の事業展開についてもお話しいただければと思います。水産業自体が衰退産業だと言われることもありますが、今後の市場の成長性や、御社のシェアを高める方法、どのような強みを生かしていくのか、などに関して教えていただけますか?

岡村:日本にいると、水産業は衰退産業のように感じることがありますが、実際の市場は伸びています。海外に目を向けると、生産量は増えており、サーモンに至っては、ここ30年で7倍になりました。

オカムラ食品工業
(画像=オカムラ食品工業)

それだけでなく、他の養殖でも需要は増加しています。天然魚の漁獲量は横ばいですが、養殖を含めると生産量は倍以上になっている状況です。経済のグローバル化や健康志向の高まりから、水産物への世界のニーズは揺るがないです。また、人類のタンパク質の獲得源が限られてきている中で、WHOが海からのタンパク質摂取を推奨しているという後押しもありました。消費環境やグローバルな市況から見ると成長産業でありながら、日本だけを見ると衰退産業と言われてしまうことにギャップがあると感じています。

ーーそれでは海外市場にどんどん進出し、売上の比率をもっと大きくしていくということでしょうか?

岡村:はい、当然消費者ニーズの高まりに合わせて海外に力を入れていきます。一方で昨今、国内でのタンパク源の供給が足りなくなるタンパク質クライシスが起こる可能性も指摘されています。私たちはこの社会課題も解決しないといけないと考えているため、国内で養殖量を増やすことが絶対的に必要だと思っています。サーモンの養殖量を特に国内で増やしていき、それを消費ニーズのある海外に売り出していくことで国内のタンパク質クライシスに対応しつつ、ニーズのある海外のマーケットに売り出していきます。

オカムラ食品工業
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ーーそれらを実現する貴社の強みとしてはどのような点が挙げられますか?

岡村:私たちの強みは2つあります。1つ目は生食用サーモン養殖のDXによる効率化で、ローコストで大規模に生産が可能なことです。これには非常に自信があります。2つ目は、海外での卸売事業の展開です。まだ進出国は少ないですが、拡大余地は十分にあります。スケジュール通りのデリバリーや、冷凍温度帯をきちんと担保することなど、日本では当たり前のことが、東南アジアではまだ非常識なこともあります。上記2点は海外で展開していく上での大きな強みになっていくと思います。

今後のファイナンス計画

ーー今後の重点テーマについてお伺いしたいと思います。今後のファイナンス戦略に関してどういうお考えを持っていらっしゃいますか?

岡村:私たちは養殖業であり設備投資が欠かせないため、ファイナンス戦略は成長していく上で欠かせないと思っております。今後の資金調達方法に関して、市場からの調達を行うか銀行から借入を行うのかの判断は慎重に行なっていきたいと考えています。

オカムラ食品工業
(画像=オカムラ食品工業)

ーー株式での調達に関して投資家への成長性の示し方も、やはり調達する上でのポイントですよね。

岡村:はい。我々の事業モデルを誤解なく伝えていくために、IRが非常に重要になってくると思っています。

オカムラ食品工業からZUU onlineのユーザーへ一言

ーーZUU onlineのユーザーに向けて、一言いただけますか?

岡村:当社の事業は派手さはありませんが、地道にタンパク質を作り、それをしっかり供給していくという仕事を行っています。これは時代が変わろうが絶対に必要な産業であり、健康に資する産業でもあると自負しています。どうか長い目で見て、お付き合いをしていただけるよう、よろしくお願いいたします。

氏名
岡村 恒一(おかむら こういち)
社名
株式会社オカムラ食品工業
役職
代表取締役社長 兼 CEO
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