社員が一番誇れる企業になるーーリンテック株式会社のダイバーシティ経営

政府からの「リスキリング支援1兆円投資」や「人的資本開示の義務化」の発表があり、企業というものの“人財”や“社員”への向き合い方が問われている。そんな中、“働くもの”に愛され、社員の力で成長し続ける企業に、その取り組みや今後の展望を伺った。

リンテック株式会社
(画像=リンテック株式会社)
望月 経利(もちづき つねとし)
リンテック株式会社 取締役専務執行役員 総務・人事本部長
1983年に不二紙工株式会社(現 リンテック株式会社)に入社し、名古屋支店で粘着紙などの営業を経験した後、本社の総務・人事本部に異動。以来一貫して総務・人事畑を歩む。2011年6月に執行役員 総務・人事本部長兼総務・法務部長兼人事部長、2015年6月に取締役常務執行役員 総務・人事本部長、2020年4月から現職。2013年から女性活躍促進検討委員会の委員長を務め、現在も後身のダイバーシティ・働き方改革促進分科会の推進担当役員を務めながら会社の諸制度の整備に尽力する。
1927年に創業した粘着素材の総合メーカー。その製品ラインアップは、シール・ラベル用の粘着紙・粘着フィルムをはじめガラス飛散防止対策フィルムや内装用化粧シート、自動車関連粘着製品、半導体関連テープなど多岐にわたる。 2021年4月にスタートさせた2030年のあるべき姿を見据えた長期ビジョン「LINTEC SUSTAINABILITY VISION 2030(LSV 2030)」のもと、サステナブルな社会の実現に貢献するための取り組みを加速させている。
・コーポレートサイトURL:https://www.lintec.co.jp/
・公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@linteccorporation

仕組み化によって実現したダイバーシティ経営

ーー人的資本経営におけるこれまでの取り組みについて教えてください。

当社のダイバーシティへの取り組みは、2013年に女性活躍促進検討委員会を発足させ、女性の活躍推進に注力したことから始まりました。そしてその3年後には、それをダイバーシティ促進検討委員会に発展させ、女性だけでなく、多様な人材が活躍できる環境づくりを目指すようになりました。

現在は、就労環境の整備や個人が抱える多様な事情へのサポートに加え、個人のキャリア開発まで行っています。就労環境の整備については、働き方や家族の介護などについて、それぞれの対応方法や会社としてできることをガイドブックにまとめ、全社員に配布しています。一方、キャリア開発においては10年前に女性向けにキャリアデザイン研修を行ったことが始まりです。当初は、一人一人が置かれた労働環境や生活環境において、それぞれが自分に合った働き方を考えるきっかけとして活用してもらうような研修でしたが、現在では内容を発展させ、キャリアデザインだけでなく、会社の中核を担ってもらう人材へのキャリアアップの支援まで行っています。

リンテック株式会社
(画像=リンテック株式会社)

また、働き方改革については、1時間単位で年休を取れるような時間年休制度やテレワーク勤務制度の導入、兼業・副業の許可など様々な施策を行っております。加えて、ジョブリターン制度とキャリアリターン制度と呼ばれる制度を導入しています。これは、育児や介護、配偶者の転勤など家庭の事情に変化があった際、また、別の企業へ転職して新たな経験を積んだ方など、一度職場を離れた場合も再度当社に戻ってきて働くことができる制度です。

これらの制度は年々利用者が増えており、働きやすい環境を整備するとともに、各制度を導入したことで、形だけの制度ではなく、社員にとって有益な仕組みとして運用できるようになってきたと感じております。

歴史ある企業だからこそ抱える悩み

ーー人的資本経営において苦労したことを教えてください。

一番苦労したことは、風土や文化の変革です。一昔前は会社の人事制度は一律で全員が平等に進まなければいけないものという認識が一般的でした。当社も長い歴史をもつ企業であり、この考え方の例外ではありませんでした。

そこで、組織文化を変化させていくために、改善できる点から順に取り組み、徐々に組織全体を変えていくという方針で、人事改革を進めてきました。長い歴史があり、生産部門での三交代制を伴う当社の制度を変えることは、難しい側面も多かったです。その一方で、当社は昔から社員同士のコミュニケーションが円滑で互いに思いやりのある組織文化も有しており、この文化は人事制度を改革する前から社会に誇れるものであると自負しています。これは当社の歴代のトップ達の人間性も影響しており、グループ社員が5400名を超える現在でも代表が現場に出向き、多くの社員の名前を覚えているほどです。

このような組織の一体感や人を大事にする文化が根底にあるからこそ、人事制度を整え、理解してもらうことさえできれば、人的資本経営の理想的な姿になれると考えています。

採用での女性比率35%達成!ダイバーシティ推進の成果

ーー取り組みの前後で変化はありましたか?

施策毎にそれぞれ成果が出ていると感じています。

女性の活躍推進については、その支援の効果もあり、10年前は10%程度だった新卒採用者(短大卒・大卒・院卒)に占める女性比率も現在は約35%になっています。また、女性向けのキャリアアップ研修についても、想像以上の参加希望があり、今後も継続的に研修を計画することになりました。今後は女性の管理職比率も向上していくと考えています。

働き方改革については、各自の都合に合わせて、多様な働き方が実現できる環境が整ってきたと感じています。例えば、男性の育休取得率は現場の社員も含め約88%まで上昇しており、平均の取得日数も約20日に伸びています。また、1時間単位での年休取得を多くの方が活用しています。また、私が四国の工場を訪れたときに驚いたのですが、工場の社員の年休取得率も数年前には30%程度だったものが、今では約70%にまで上昇しています。これは社員が休みをとっても対応できるような組織体制になっていることに加え、休むことは当たり前のことであり、相互に助け合うという文化が根付いてきていることを肌で感じました。

エンゲージメント向上で開くキャリアの新たな扉

ーー今後の展望を教えてください。

一人一人が自律的に行動できる組織を目指しています。テレワーク勤務や時間単位での年休取得など、働き方が自由になる一方で、各自が主体性をもち、能動的に行動できる人材を育てていくことが会社の成長につながると考えています。一人一人が成長することで、組織や職場の改善、さらにはそれが業績向上につながり、最終的には一人一人の処遇が改善されて、還元されるという好循環に結びつけていきたいです。

そのために現在は、従業員のエンゲージメントの改革に注力しているところです。エンゲージメントサーベイを実施し、社員同士の関係値や労働環境を可視化することで、企業としての改善点を明確にするだけでなく、その結果を受けて、部署ごとに今後に向けたアクションプランを計画するという部分まで行っています。改善内容に関しても各部署の主体性を重んじています。アクションプランの策定は、部署単位でかなり詳細まで作り込んでくれています。従業員エンゲージメントの取り組みは単にスコアを上げることが目的ではなく、社員のエンゲージメントが向上することで、社員や会社、さらには社会の改善につながっていくと考えています。

また、個人の成長やスキルアップにも力を入れていきたいと考えています。これまでも、仕事に必要な資格の取得支援などはおこなっておりましたが、それに加え、社会で必要になるDXなどのテーマについても、学習してスキルとして身につける機会を提供することで、個人のキャリアの選択肢を拡大していきたいと考えています。ここについては、まだまだ支援が不足している部分だと感じているので、まずは社員の率直な意見を聞いたうえで、適切な施策や制度に落とし込んでいく予定です。

リンテックからステークホルダーの皆様へメッセージ

ーーステークホルダーの皆様へメッセージをお願いします。

私たちは社是として「至誠と創造」を掲げています。皆様がワクワクするような「創造」を行うことと、社会の公器として果たすべき役割を愚直に果たしていくという「至誠」を重んじています。もちろんガバナンスコードや業績など様々な指標はありますが、それぞれの条件を満たしたり、一定の数値を超えたりすること自体を目的とするのではなく、社会にとって本当に必要な課題を解決するための企業でありたいと考えています。

また、社会の公器としての役割を果たすための土台が、組織であり社員であると考えているので、まずは自社の社員が一番誇れるような企業になることを目指し、人的資本の向上に努めてまいります。こうした活動を通して、当社の取引先の方々や投資家の皆様、ひいては社会に還元していきたいと考えています。

氏名
望月 経利(もちづき つねとし)
社名
リンテック株式会社
役職
取締役専務執行役員 総務・人事本部長
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