老舗魔法瓶メーカーの4代目が語る、時代に合わせた経営スタイルとは?—— ピーコック魔法瓶工業株式会社

ピーコック魔法瓶工業株式会社
(画像=ピーコック魔法瓶工業株式会社)
山中 千佳(やまなか ちか)
ピーコック魔法瓶工業株式会社 代表取締役社長
2代目社長である山中茂弘の長女として生まれ、大学卒業後は総合商社、ゴルフ関連の仕事を経て2006年3月から当社。経理部門を統括していたが、3代目社長であった兄の山中佳弘が体調を崩したことにより2015年5月に代表取締役社長に就任、現在に至る。ゴルフとお酒を趣味として、「誠実と感謝」がモットー。
ピーコック魔法瓶工業株式会社
1950年創業、大阪を拠点に今年で74年目を迎える老舗の魔法瓶メーカー。温度を保つ真空二重構造のポットや水筒、ランチジャー、また、電気加熱式のポットやホットプレート、トースターなどを開発している。企業理念【「食に」に「感動!」を】を掲げ、生活者の食の環境をより豊かに実りあるステージにするために、社会の変化やニーズを見極め、必要とされるものづくりを続けている。

創業からこれまでの事業変遷

ー 創業からこれまでの事業変遷についてご説明いただけますか?

山中当社は創業が1950年で、輸出用のガラス魔法瓶の製造販売会社としてスタートしました。今年で74期目に入ります。現在は主にステンレス魔法瓶やステンレスボトル、ジャグキーパーやポットなどを販売しております。また、電気ポットや電気ケトル、電気調理器などの電気製品も取り扱っています。全体の売上構成は、ステンレス製品が6割、電気製品が4割です。私は4代目社長で、今年の5月で就任9年になります。

ー 山中様が入社された経緯や、社長に就任されるまでの経緯についてお聞かせいただけますか?

山中 私は2006年にピーコック魔法瓶工業に入社しました。当初は経理部門で、父からの要請で簿記学校に通いました。その後、約10年間財務部門で働きました。2015年に、3代目の社長であった兄が体調を崩し、私が社長に就任しました。

ー 現在の御社の事業の競合優位性についてお聞かせいただけますか?

山中 かつては50社ほど魔法瓶事業を行っていた企業がありましたが、現在は当社を含む5社が残っています。大手企業と比べて、当社の強みは自社で企画からデザイン、製造まで一貫して行っていることです。そのため、スピード感をもって事業展開ができるという点が他社との差別化になっています。

ー 今の目標についてお聞かせいただけますか?

山中 2015年頃から魔法瓶事業は中国での生産が増え、価格競争が激しくなっています。その中で、当社は他社との差別化を図りながら、価格競争に打ち勝っていく必要があります。今後も自社で企画から製造まで一貫して行うことで、他社との差別化を図り、市場での競争力を高めていくことが目標です。

代替わりの経緯・背景

ー 事業承継の経緯や背景、そしてその上での苦労などをもう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

山中 もともと私は当社に入る予定はなく、大学を卒業後、総合商社で営業業務を担当しました。その後、ゴルフにはまり、ダンロップに入社しました。そんな中、父から当社の財務部門の担当者が退職するという話を聞き、身内で財務の方を見てもらいたいという要請がありました。そこから私は入社し、経理からスタートしました。

私の兄はもともと父が経営していた山中魔法瓶という魔法瓶の製造会社で長年働いていて、ものづくりを一から勉強していました。しかし、私はそのような経験がなく、父に付き添って勉強する時間もなかったため、ものづくりについての知識が不足していてメーカーを経営していくには非常に厳しいスタートでした。

ー 会社の中での状況はどのようでしたか?

山中 父はもともとものづくりが得意で、デザインもできる人物でした。父がやっていた時の経営はトップダウンで、父の考えたものづくりややり方を部下に指示していました。そのため、私が入った時に一番苦労したのは組織が機能していなかったことでした。各部署が連携し責任を持って仕事をするという風にはなっておらず、各部門は言われたことにそれぞればらばらに動いている状況でした。また、長く勤めている方が多く、私より年齢が上の方も多かったです。

ぶつかった壁と乗り越え方

ー ピーコック魔法瓶の跡継ぎとして、先代の幹部とのコミュニケーションや組織風土など、難しい課題にどのように取り組んできましたか?また、具体的な施策についてもお聞かせいただけますでしょうか。

山中 最初は古参幹部とのコミュニケーションが難しく、なかなかうまくいかなかったですね。しかし、コミュニケーションの回数を増やし、お互いの思いを共有しながら、過去の良い部分は受け入れ、融合性を保ちながら進めてきた結果、徐々に関係性が良好になりました。

ー 山中社長が就任されてから、企業理念を改めて見直し、ワンピーコックという統一感を持って取り組んでいると伺いましたが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

山中 企業理念を新たに設定し、毎朝の朝礼で皆で唱和することで、意識統一を図っています。これによって、皆の気持ちが1つにまとまっていく流れができてきたと感じています。

ー 昨今、ミッションやビジョン、バリューなど、経営と業績の結びつきは非常に大事だと言われていますが、5年前から取り組んでいるとのことですね。

山中 そうですが、まだまだ足りていない部分もあります。現在は、コロナ禍や物価高といった時代の変化に対応していくスピード感が求められています。私たちはメーカーとして、ものづくりに重点を置き、消費者が求めるものを作り出すことが最も重要だと考えています。そのために、皆で1つになって取り組んでいくことが大切だと思っています。

ー ミッションやビジョン、バリューの制定にあたって、参考にした方や経営者様とのつながりはありますか?

山中 いろいろな経営者さんやコンサルの方からお話もうかがいましたが、なかなか自社の思いを言葉に落とし込むことが難しかったです。そこで、自社の社員を巻き込んで一緒に意見を出しながら考えることにしました。現在はほぼ決まってきているのですが、再度社員を巻き込んで構築し、皆で一緒に取り組んでいくことが大切だと考えています。

ものづくりへのこだわりとマーケティング強化

ピーコック魔法瓶工業株式会社
(画像=ピーコック魔法瓶工業株式会社)

ー 時代が変わるにつれて社内人材の必要なスキルも変わってくると思いますが、その点についてはいかがお考えでしょうか?

山中社長就任以降、仕事の進め方に女性の視点も重要と考え女性社員を積極的に採用しています。また、昔のように商品が棚に並ぶだけで売れる時代ではなくなったことを痛感しています。このためマーケティング部を立ち上げ、お客様目線のものづくりを含めマーケティング施策に力を入れるとともに、ECモールにも出店し、Webでの販売を加速させています。さらに直近では広報部も創設し、ブランドの認知向上に努めています。

ー 確かに、今の時代はWebが重要ですよね。

山中時代にキャッチアップし続けないと、本当に乗り遅れてしまいます。弊社も、SDGsのトレンドから、環境に配慮した商品やパッケージにも取り組んでいますが、まだまだ日本ではボトルを持つ人が少なく、需要が伸び悩んでいます。今年の春には、環境配慮型の素材を使用したプラスチック製の二重構造のボトルも発売しました。大阪万博も控えていることですし、みなさまに魔法瓶やボトルをもっと日常使いしていただけるよう努力していきたいと思います。

ー お父様はものづくりに強みをお持ちだとお聞きしましたが、山中さんにはユーザーの視点が非常に入り込んでいると感じました。

山中実際、今ある商品の一部も父がいたら作ってないだろうなと思うものもたくさんあります。その中で特長的なのは、「おうち居酒屋シリーズ」という魔法瓶構造の酒器商品です。当社の得意技術とマーケティング思考を取り入れて開発したもので、コロナ禍でお酒もお家で飲む人が増えた時に発売されました。これは各方面からすごく評判が良く、今後もシリーズを拡充していこうと考えています。

ー インバウンド向けやお土産にも良さそうですね。

山中実は、ビアタンブラーや焼酎タンブラー、ワインクーラーなど、これまで真空断熱技術を使ったシリーズものがなかったんです。この点でも皆さんに高評価をいただいていますし、毎年春に開催されるdancyu祭りにも3年連続で出店していて、。好評をいただいています。

ー どれも魅力的な商品ですね。

今後の経営・事業の展望

ー それでは、今後の経営方針や事業の拡大方針についてお伺いできればと思います。

山中 はい。現在、国内の売り上げが8割で輸出が2割ですが、もともとは8割が輸出で国内が2割からスタートしました。昨今為替の円安や材料高が続いており、国内市場では価格的になかなか思うように展開できないというのが非常にネックになっています。

そうした状況下で、今後は海外輸出ウェイトを高めていきたいと思います。シカゴで行われるアメリカ最大級の日用品展示会に昨年から出展するなどかつて持っていたアメリカ市場での再チャレンジを精力的に取り組んでいます。また、従来持っている中東や東南アジア市場にも、もっと力を入れていこうと考えています。中国に関しては、10年前に上海に販売会社を設立しており、そこを体制強化するつもりです。 各国によって売れるものも違うため、世界各国に合わせた商品群の提案ができるような開発をしていかなければならないと思っています。

ー 御社にない事業部分のM&Aについても考えているとのことですが、具体的にはどのようなことを考えていますか?

山中 これから80年、90年、100年と会社を継続していくにあたっては、新規事業は常に考えておく必要があります。弊社にない技術や一緒に融合してプラスを生み出すような提携先があれば、一緒に提携していく策も考えていこうと思っています。

ー ちょうどシカゴでのプレスリリースも拝見しましたが、向こうの形に合わせたようなクーラーコンテナの展開もされているとのことですね。今後、アメリカでも現地法人を設立して拡大していく予定なのでしょうか?

山中 現在、その拠点がないため、色々な商品のオファーが来る中で在庫の問題が出てきています。アメリカで販路を獲得して伸ばしていくには、現地に拠点を持たなければならないと考えています。

全国の経営者へ

ー 最後に全国の経営者へ向けたコメントと、ピーコック魔法瓶の宣伝をお願いできますか?

山中 この職務を9年行っておりますが、私がこの業界に初めて入った時、まさか社長になることは想定外でした。そのため、勉強をしてこなかったことが、この8年間苦しんだ原因の1つです。さまざまな経営者の方と交流の場が持てる中で、多くのご指導をいただいております。しかし、経営というのは結局、一人で判断をしなければならない場面が多く、経営者の方々は孤独であることが多いと感じます。最終的には自分で決めなければならないことに悩んでいる方が非常に多いと思います。

正解の教科書があればと、多くの経営者が思っていることでしょう。私もそれを探し続けていますがそういうものには巡り合えないので、私は自分の中に一つの拠り所を作っています。具体的には、弊社はものづくりをしており、メーカーとしてお客様に必要とされる会社であり続けたいというのが、私たちの想いです。迷ったときには、いつもそこに立ち返るようにしています。

ー 本日はお時間いただきありがとうございました。

氏名
山中 千佳(やまなか ちか)
会社名
ピーコック魔法瓶工業株式会社
役職
代表取締役社長

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