静岡の老舗機械製造業の3代目がAIを駆使して業界全体の省電力化に挑戦!——株式会社イシダテック

株式会社イシダテック
(画像=株式会社イシダテック)
石田 尚
株式会社イシダテック 代表取締役

筑波大学大学院(工学)修了後、2012年に株式会社エル・ティー・エスに入社。企業変革に係わる多様なプロジェクトに従事。
2015年に株式会社イシダテックに入社
2018年にスイス企業とともに関連会社アーオーグループジャパン株式会社を設立し、同社COOに就任。
2021年1月より現職。
2023年4月より静岡イノベーションベース(SIB)運営委員会長を、2024年4月より筑波大学非常勤講師(研究開発原論)を務める。
株式会社イシダテック
1948年静岡県焼津市にて個人創業。食品・医薬品製造現場向けのオーダーメイド装置を企画・設計・製造するメーカー。 使い勝手や機械的正確性に加え、独創性を備えた "秘密兵器" をお客様の生産現場にお届けし、成長に貢献することがミッション。また近年では自社開発のAIを用いた魚類選別をはじめとする最新技術と、創業以来培ってきた装置・生産に関する知見を融合し、画期的・革新的な生産方法を提案することを目指している。

創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み

ーー 創業からこれまでの事業編成をご説明いただけたらと思います。

石田 当社の創業は、記録上は1947年ですが、公式には1948年に石田鉄工所という名前で始まりました。静岡県焼津市は水産の街で、当時から水産加工業が盛んでした。水揚げした魚をお客さんに求める形に加工する加工場がそこら中にあったと聞いています。

そんな中、私の祖父が戦後すぐに鉄工所を立ち上げ、当時学んだ技術を利用して、水産業者の作業が少しでも楽になるようなものづくりを始めました。

1950年から60年にかけての静岡県の主な外貨の取得手段は水産物や農産物の缶詰でした。その頃から、人手でできることは機械でできるはずなので、できるだけ機械化していくようになり、そのための製造機械を作って提供していました。その後、クライアントのニーズに合わせてさまざまな製造機械を提供していき、水産業者の痒いところに手が届くような存在として、現在まで事業展開してきました。

ーー お客様がまだ言語化できていないような課題を、お客様の現場ごとにオーダーメイドで設計・製造し、的確に解決するところが御社の1番の強みだと思いますが、これが実現できている1番の要因は何ですか?

石田 1番の要因は、今回のインタビューのテーマにもある通り、歴史長く様々なことをやってきたからだと思います。0からオーダーメイドで設計すると言いつつも、そのニーズの多くは、実際に過去のお客様が困っていたことと類似しており、社内の誰かが何らかの形で創ったものを組み合わせて、新たな形にしていることがほとんどです。

そして、その組み合わせ数が多いことも強みです。製品を扱う人の勤続年数も長く、40年以上勤めている人もいます。定年後も嘱託でずっと働いている地元の社員も多く、そういった人が、過去の経験を受け継いで今に至っているところがあると思います。

ーー なるほど、長年続けてきたからこそノウハウも溜まっているということですね。現在はどんな取り組みをされているかお伺いできますでしょうか?

石田 最近では、ハードウェア一辺倒からソフトウェアとハードウェアを融合してより付加価値を向上させた解決策が提供できないかというテーマに取り組んでいます。自社で開発したAIをハードウェアに実装して、人間の能力を拡張していくことをテーマにしています。これは大手乳業・菓子メーカーの工場に入れ始めたところからスタートしましたが、そういった新規領域を狙いつつ、旧来のお客様とともに省力化需要の高まりに乗って事業を展開しています。

承継の経緯と当時の心意気

ーー 経営者としてのバックボーンや、先代から事業承継をされた経緯をお聞かせいただけますか。

石田祖父が家に工房を持っており、私は幼少の頃から物作りに対する情熱を感じていました。といっても、幼稚園や小学校から帰ってきたらまずは工房で何か新しいことが起きていないか、と覗きに行くことがほとんどでしたが。その後、大学ではデータ解析や統計工学を学び、データを扱うことに興味を持っていました。大学院卒業後はLTSという会社に入り、そこで組織づくりと会社づくりを学びました。事業や組織を次の成長戦略に合わせて新調させていく、いわゆる第二創業期であったため、コンサルティング業務の傍ら、色々な仕事を経験し、成長する企業がどのようなものかを体感、また社内の経験シェアを通じて勉強しました。こうした経験から中小企業で社長をやるというイメージが固まっていったのだと思います。

LTSでは、10年ぐらい働こうと思っていたのですが、父親の体調が悪化し、2015年の中頃にプロジェクトの切れ目が迫っていたので、イシダテックに戻ることを決断しました。

2016年1月から本格的に働き始めましたが、同年9月に元気だった祖父が亡くなり、さらに3年後に父親も亡くなりました。ゆっくり引き継ぎをする間もなく、背中を見て育つことができなかったのが残念です。

ぶつかった壁やその乗り越え方

ーー 3代目社長として会社を経営していく中で、組織や人材面で壁にぶつかった経験があればお聞かせ願えればと思います。

石田 よく後継社長の方が悩まれる、古参の方が言うことを聞いてくれないということはあまりありませんでした。むしろ、私の祖父が現役だった頃に新卒で入ってくれた方々は、面白い文化を持っていました。例えば、「焼津荒祭」というものが地場のお祭りとして有名なのですが、会社総出で大切にしていて、当時の新卒社員をお祭りの重役にするのです。そういった地域を大切にする企業文化はとても素敵だと感じています。

組織面で苦労したのは、事業の方向性が定まらない中で中途で入った社員から変革の潮目のたびに反発を受けたことです。スキルはあるけれどマインドが違うという共通点がありました。

私が就任した当時、イシダテックに足りていないものは開発機能でした。先代の私の父親は、安定的に収益の上がるOEMの仕事を受けて、仕様が決まっているものを作り続けるという体制でした。しかし、新たに機械を開発するという機能が優先されていませんでした。「お客様の生産現場に秘密兵器をお届けする」には、今一度、開発機能を育てる必要がありました。また、時間節約のために、スイスの研究開発型の企業と一緒にジョイントベンチャー型の企業を立ち上げ、開発機能を取得しました。

しかし、新しいことを始めると既存の人材では対応できませんでした。社内で賄えないのであれば、新たに適した人を採用していこうという考えになります。例えば、AIやソフトウェアのスキルを備えた人材や、事業創りに適性のある人材が必要です。

2017年にはNHK高専ロボコンで大賞を取った経験のある新卒社員が入社したのですが、他の人と異なる勤務形態ながら、しっかり成果を上げてくれています。一方で、既存の社員からは、そんな働き方をしている彼と一緒に働くのが馬鹿らしくなるという意見もありました。

ーー そうなんですね。それを社長がうまく取りまとめたのでしょうか。

石田 ある程度合理的な組織体制に変革する、必要な人材を集める、などは行いましたが、「取りまとめられている」かは分かりません。ただし、みんなが慣れてくれたのか、風向きが変わってきたと思います。成果が出てくると、既存の社員も「うちAIの事業を始めたんですよ」と社外に自慢げに紹介するようになりました。

今後の新規事業や既存事業の拡大プラン

ーー 今後の新規事業や既存事業の拡大プランに対してお聞かせいただけるでしょうか。

石田 これまでの既存事業では、ハードウェアに重点を置いていましたが、最近はAIを活用した管理システムを開発し、安定的に稼働させています。今後は、業界の品質のトッププレイヤーと組んで、ハードウェアとデジタル技術を融合させた省力化ソリューションをその業界に提供していく予定です。

最近では、芋やカツオといった農水産製品のサイズを自動で選別するAIを、品質基準の高い企業と共に開発しました。また、冷凍業界でAIを活用した選別を行うことは他の企業がやっていないため、そこにも取り組んでいく予定です。さらに、1次産業と2次産業の結節点となるデータを集めることで、データを利用した新たなビジネスが展開できると考えています。

最終的には、その業界のトップ企業と一緒に高品質な製品を提供し、業界全体を底上げしていくことが目標です。ハードウェア製品は売り切りですが、ソフトウェアの方は、専門家である企業が監修したAIモデルなどを業界の皆さんに使っていただき、業界全体を底上げしつつ、自社の収益も上げていくことが一つの戦略です。

ーー 他にM&Aの戦略において、どのような会社を買収して、自社の武器にしていくといったビジョンがあるのでしょうか?

石田 まず、お客様の中で、生産現場のリーダークラスが困った時に相談できるような存在になりたいと考えています。常にベストソリューションを提供できるかわからないものの、少なくとも常にベストパートナーでありたいというのが目標です。そのためには、まだまだ基盤が足りていないため、拡充をしていきたいと思っています。

今は41人の従業員がいますが、6年後には90名ぐらいにしていきたいという目標があります。製造を含め、エンジニアの7人チームを10つくりたいのです。その後、非オーガニックな成長も実現させていきたいと考えています。M&Aの戦略では、事業継承の担い手がいないものの、確固たる技術やお客様がついている企業を買収していくことに興味があります。

メディアユーザーへ一言

ーー 最後に経営者を中心とするメディアユーザーの方々に向けて、一言コメントをいただけますでしょうか。

石田 最近私がよく言っているのは、自分たちの会社が置かれてる環境下で、普通は思いつかないような驚きの世界を実現しようということです。私たちの会社もそうであってほしいと思っています。例えば、「こんな地方の港町にこんなエンジニア集団がいたのか」とか、「こんな面白いことができる会社があったのか」というような感動を与えられることを目指しています。「なぜここにこの会社が?」と合理的には考えられない、得体のしれない気持ち悪さを感じてもらえると嬉しいです。

これは地理的なものや宗教的なもの、文化的なものに関係なく、どこでも実現可能だと考えています。私たちには幸運にもそういったパートナーやお客様がいて、とても面白い取り組みが次々とできています。絶対にどこかにチャンスがあるはずです。

オーナー経営者の中には、「うちの産業は」とか「うちの環境が悪い」と言って不平を言っている2代目や3代目もいますが、それは逆にチャンスだと思っています。私たちのような会社がそれなりにやっているので、皆さんもできるはずです。ただやっていないだけだと思います。したがいまして、「前を向いて頑張りましょう」というメッセージをお伝えしたいと思います。

ーー とても力強いメッセージをありがとうございます。

氏名
石田 尚
会社名
株式会社イシダテック
役職
代表取締役

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